大宮到着
大宮駅にやってきた。まだ朝早い。
きょうは時刻表に載っていた謎の列車、「快速南房(なんぼう)フラワー号」に乗るため大宮にやってきた。大宮から館山に向かう臨時列車だと時刻表には書いてあった。
しかし普通に考えるとふだん電車が通る場所だけではとてもじゃないが大宮から館山に行くことはできなさそうだ。
ただ、何年か前に「ホリデー快速鎌倉号」という列車に乗ったことがあり、もしかしたらその列車みたいに「謎のレール」を通って行くのではないかと思い、乗ることにしたわけである。
回想
ぼくは今までに乗ってきた「謎のレール」を思い起こしてみた。こんな列車があった。
(1) ホリデー快速鎌倉号
(2) ホリデー快速むさしの号
(3) 臨時快速平塚七夕号
(4) 快速ムーンライト(1994年当時)
(5) 保土ヶ谷で不発弾処理があった時の、品川~藤沢ノンストップ列車
(1)は横浜~西国分寺間で謎のレールを通り、それから北朝霞~大宮間でも謎のレールを通った。
(2)は立川~新小平間で謎のレールを通り、それから(1)と同様に北朝霞~大宮間の謎のレールを通った。
(3)は新宿~横浜間、不思議なルートを通って新宿から西大井まで進み、そこから横須賀線で横浜に行った。そして大船まで横須賀線を通った後でなぜか謎のレールを通り藤沢に行った。
なんでも新宿~西大井間の一部は、新宿と成田空港を結ぶ特急成田エクスプレスが毎日通る場所だということだ。
(4)は池袋~赤羽間で埼京線とは別の場所にある謎のレールを通った。他と違い平日でも1日に何往復か快速ムーンライト以外の電車が走っている。
(5)は品川から横須賀線に転線し、西大井まで進んだ後で、(1)の横浜~西国分寺間の謎のレールの一部を通った後、なぜか地下にもぐり、貨物駅みたいな場所を通り、またトンネルに入って地上に出ると東戸塚のホームのないレールを通り、そのまま藤沢までホームのない場所を通る列車だった。
この列車はふだんは運賃とは別に「乗車整理券」の購入が必要な「湘南ライナー」しか走らない区間で、乗車整理券が不要だったのは保土ヶ谷で不発弾を処理していた間だけだった。
とにかく謎のレールを通るのは「大冒険」に出るような気がしてわくわくした。南房フラワー号もわくわくする列車のような気がしたので乗ることにしたのである。
大宮発車
まだ時間はあるから大宮で改札を通っても良かったが、うっかり南房フラワー号に乗り遅れるとまずい。だから改札は出ず、トイレに行っておくだけにしておいた。長丁場になりそうだからだ。
そして南房フラワー号が出そうなホームに行く。たぶん以前大宮までホリデー快速鎌倉号に乗ったときに着いたホームだろうと思い行ってみる。ホームのないレールが何本か向こうに見える端のホームだ。しばらく待つとやはりそこで、電車が入線してくる。
思った通り、ボックス席ばかりの電車である。やっぱりそうか。電車が停車してしばらく待たされたが、ようやくドアが開いた。乗ってみる。たいして客はいない。朝早いからなあ。それに大宮にいる人はたいてい赤羽か上野に用のある人で、赤羽にも上野にも行かない電車に乗る人はそんなにいないだろう。
座席にすわって待つが全然客は来ない。そのまま発車時刻になり、電車はゆっくりと大宮駅を発車していった。
大宮~南浦和
電車は進む。左手奥の方に京浜東北線のレールが見える。それから東北本線らしきレールも見える。すなわちホリデー快速鎌倉号と同様、通常の東北本線のレールは走っていないということだ。
右手には東北新幹線の高架が見える。そのうち地下から埼京線のレールが現れて東北新幹線の高架に並ぶ。
ホリデー快速鎌倉号で大宮近辺を通ったときはすでに日が暮れていたが、こうやって明るいときに通るとやっぱりわくわくする。
そのうち電車は地下にもぐっていく。謎のレールである。そのまま長いこと地下を進む。
ふたたび地上に出たときも相変わらず右手に東北新幹線の高架が見えた。しかし左手に東北本線や京浜東北線はない。そして今いるレールが高架へと上がっていく。
そして高架になったレールは右に曲がり、埼京線、そして東北新幹線の高架の下をくぐっていく。とてもわくわくする景色である。おそらくこっちのレールが先にあって、あとで新幹線や埼京線が建設されたのでそちらが上になったのだろう。
ここのレールはホリデー快速鎌倉号に乗ったときも通ったはずだがあのときは暗かったので、こうやって明るいうちに通るとおもしろい。なにしろ線路以外の場所が住宅街というのがおもしろさを増す景色である。
新幹線の下をくぐって多少離れたところで、今いるレールが分岐し始めた。そして右にレールが分岐していくのが見える。今いるレールは左に曲がり、電車も左に曲がっていくのだ。おそらく右に進むのがホリデー快速鎌倉号の通るレールだろう。
こちらのレールは西船橋、そして館山に進む必要があるので分岐するのだ。なんでもこのレールはもともと貨物用で、今も貨物列車がばりばり通るという話だ。数年前に新小平のあたりで大雨が降って長期にわたって武蔵野線が不通になったときは、貨物列車で運ぶべき貨物をトラックで運ぶことになって相当損したとか鉄道の本に書いてあったなあ。
レールは左に曲がり続ける。そして右手に武蔵野線らしきレールが合流してくる。今乗っているレールのそばの、大宮に向かうらしいレールはさらに標高を上げ、武蔵野線をまたぎ越していくようだ。そしてこちらのレールは武蔵野線と寄り添い、合流していく。
南浦和~木更津
あとはいつも通りの武蔵野線の景色である。とは言えいつもだったらたいてい満員の車内なのに、この快速はがらがらである。去年の4月のホリデー快速鎌倉号の大船~北鎌倉間みたいな混雑もない。
南浦和を過ぎてしばらくすると浦和の市街地を離れていき、家並みも少なくなる。南越谷では武蔵野線の高架の下に東武線の新越谷のレールが見え(1995年現在)、そのままながめのいい場所を進む。新三郷ののぼりくだりレールが離れる場所もいつもの通りだ。とにかく快速なのですいすい進む。
新松戸から西船橋まではトンネルを通るが、西船橋を過ぎるとまた高架だ。レールは左に曲がって南船橋に到着する。西船橋から南船橋に行く電車がそのまま京葉線を進み続けることはめったにないが、この快速は蘇我(そが)に向かって進んでいく。もちろんいつも通りのながめのいい京葉線の景色だ。海が見えるのはいいなあ。
そして蘇我から内房線に入る。つい何年か前から特急さざなみは京葉線経由になってしまったのでこの乗り入れは特急などで毎日行われているようだ。でも相変わらずがらがらのまま進む。やっぱり2月じゃ客は少ないだろうなあ。
内房線に入ると高架から地上におりるのでそれほどながめが良くはなくなるが、このあたりは工場がたくさんある場所で、煙突などもあり、けっこう景色のいい場所である。たまに海も見える。そんな景色を進んでいく。でも何度か通った場所なのでそれほどおもしろいものでもない。
そんなふうにして電車は進み、無事木更津駅に到着した。電車を降りる。降りる客はあまりいなかった。千葉駅を通らないからかなあ。
港に向かう
電車は館山に向かって発車していく。まだお昼にもなっていないけど、2月だしこのあたりに行きたい場所もそんなにないし、でも内房線で千葉に引き返すのもおもしろくない。
やっぱり川崎までフェリーに乗るのが一番おもしろそうだ。何年か前に川崎から木更津までフェリーに乗って、あの時は確か本千葉まで行って京成の千葉中央まで歩いて京成で寮まで戻ったっけ。
よし、川崎に行って、そのあとどうするか考えよう。もう木更津に着いた時点でホリデーパスのもとは取れているから日が暮れる前に帰ってもいいや、そう考えた。
改札に行き、ホリデーパスを見せて通る。フェリーの港はあっちだったなあと思い出しながら歩いた。
補足
なお上で示した(1)~(5)の、1995年当時の「謎のレール」であるが、(3)(4)に関しては、のちに赤羽~池袋間と新宿~西大井間を含む区間が「湘南新宿ライン」として1時間に数本電車が走る区間になっている。
(1)(2)も(1)の横浜~西国分寺間を除いて1日に数往復電車が走る区間となっている。
横浜~西国分寺間は現在も特定の土日を除いて旅客列車の走らない区間である。
(5)の区間は1995年当時と変わらず湘南ライナーが1日数往復走っている。ただし不発弾処理ではなく駅の工事のため、乗車整理券不要の列車が(5)の区間を走ることはあった。その際、すでに横須賀線に武蔵小杉駅があったため、ノンストップ区間は品川~藤沢ではなく武蔵小杉~藤沢であった。